ドバイの超高層ビルと殊勝な無銭飲食犯 [社会問題]
アラブ首長国連邦のドバイ(Dubai)で建設中の超高層ビル「ブルジュ・ドバイ(Burj Dubai)」が21日、台湾・台北(Taipei)市にある「台北101(Taipei 101)」を抜いて世界一高いビルとなった。2008年末の完成時には高さ700メートル超、階数も160階を上回る予定という。
砂漠とらくだというイメージであったドバイが、超近代的な高層ビル群が林立し、そのなかに700メートルを超える超高層ビルができるというのですから、想像もできないことでした。700メートルといえば、東京タワーの2倍以上ですからすごいことです。
話は変わって、スポーツ紙のスポニチにあった「殊勝な無銭飲食犯」と題した記事を紹介したいと思います。
「殊勝な無銭飲食犯」
たまごスープ頼み自首して〝一礼〟「最高においしかった」 経営者思わず同情
所持金48円……「刑務所に入るしかない」 出所わずか9日
刑務所を出所して9日目に、無銭飲食で複数回逮捕歴のある、住所不定無職の田島憲房容疑者(57)は、また無銭飲食を繰り返してしまったのでした。田島容疑者は、4日午後10時40分~11時25分ごろ、福岡県博多区博多駅南2丁目の焼肉店「炭焼しちりんや」でビール2杯、焼酎2杯と焼肉の上カルビ、ロース、ホルモン、タン塩焼き、ハラミなどを注文し、飲食代6040円を無銭飲食したのです。
田島容疑者は11月26日山口県の刑務所を出所、福岡で職を探したが見つからず、もっていた所持金3万円は宿泊や飲食で使い果たし、逮捕された時の所持金はわずか48円でした。
警察での取調べに対し、「死ぬしかないが、死ねない。刑務所に入れてもらうしかない」「所持金がなく、このままでは年が越せない。よろしくお願いします」などと話しているという。
飲食店経営者男性(40)の話によると、田島容疑者の告白が始まったのは、最後に注文したたまごスープが運ばれた時。経営者に両手を出して「手錠をかけてください」と切り出し、「私がいうのもなんですが、最高においしかったです」と一礼した。
「もう一回刑務所に入りたい」という田島容疑者に、経営者は「110番していいんですか?」と確認して連絡。博多署員が到着するまでの15分間、テーブルで身の上話を聞いたという。独身で過ごし、父をなくし、52歳くらいで人生をあきらめ、それから無銭飲食を繰り返すようになったのだという。
飲食店経営者は、「こういう世の中になってしまったんだな、と肌で感じた。無銭飲食はもちろん悪いが、最高においしかったといわれれば… 」と同情気味に語ったそうです。(以上スポニチ記事より)
この不景気な世の中に、57歳の中高年者が、所持金三万円で刑務所から出されたのでは、職がなければどうしようもないと思います。田島容疑者には、「死ぬ」か、「刑務所に入る」しか選択がなかったのです。田島容疑者の「死ねない」という心情を、誰も非難することなどできません。
今の日本の社会は、のろまな落ちこぼれ者に、死を迫っているような状況にあるのではないでしょうか? 「すべり台社会の日本」(反貧困)という指摘がありましたが、ちょっと油断していると落ちこぼれてしまう危険性があるのだと思います。エコノミストの森永卓郎さんが、金持ちで寄付する人はいない、寄付するのは油まみれになって働いている労働者のような人たちであったと語っていましたが、富裕者は、持たざるものに対して、いつまでも知らぬ存ぜぬを決め込んでいてはいけないのではないでしょうか? 人間の生存権を尊重するために、わかちあいが必要になってくるように思います。
小泉政権以来、「自己責任」ということが強調されましたが、「格差は悪いことではない」といった小泉純一郎氏の「自己責任」は、ハンディキャップレースにおける「自己責任」であり、まやかしがあったのです。「自己責任」は、平等な条件の下で、はじめて問われるべきものなのだと思います。いまや、日本の社会は、「競争、自己責任」から、「わかちあい、共生社会」へと価値観の転換をしなければ、これから予想される「未曾有(みぞう)の困難」を乗り切ることは難しいように思われます。そして、この転換を牽引するのは、政治しかないのだと思います。
参考 拙ブログ 「すべり台社会」の日本